若い人が写真で生きていくとするなら、、、

若い人から「どうやったら写真で食べていけるようになりますか?」と聞かれるが答えに窮する。なぜなら「写真だけで」食べていくのは本当に大変な時代になったからだ。

以前はアカメラマンシスタントを経験した後、数年で年収1000万円というのはそんなに珍しいことではなかったし、カメラマンというのは起業として、そう悪くない商売だった。
今でもセンスと才能がある人なら儲かっているとは思うが、昔はさほど才能がなくとも、なんとかやっていけるところがあった。

写真で食べている人=カメラマンであり、表現者というより職業人だった。

「あなたができないことを代わりにやります」というスタンスだ。そのための機材を持っていて、それを使いこなせる経験がある。フィルム時代は誰でも撮れるようなものではなく、最低10年の修行が必要だった。
その10年はわき目もふらず、写真のみに集中する必要があった。寝ても覚めても写真漬けの10年。写真家のアレック・ソスもトークイベントで「写真を体に記憶させるのに10年必要だ」と言っていた。

ところがデジタル化が進み、誰でも手軽に撮れるようになると雲行きが怪しくなり、リーマンショックで一気に景気が悪くなるとカメラマンは魅力に乏しい商売になっていった。

その頃を境に、自分のことを写真家と名乗る人が多くなってきた。写真は職業より表現者の方が面白いと思う人が増えてきたのだ。職業でないのだから、それで食べていく必要がない。収入源を他に持って、表現者として人と接するときに写真家を名乗る。

おそらく現在、写真家という肩書きを持つ人の99パーセントが写真を職業としていない。つまり写真の表現で食べていくのはほぼ不可能。裏を返せば収入源を他に持つ人のみ表現者になれるということだ。サラリーマンでも店の経営でも、誰かに生活面の面倒をみてもらうのでも、なんでもいい。

写真に限らず、今は大抵のことは専門の学校に行かなくてもYouTubeで勉強できる。撮影方法からライティングからphotoshopの使い方やら、知りたいと思うことはほぼほぼある。フィルム時代には10年の修行が必要と言ったが、今なら3年も本気でやれば十分だ。

なので若い人から相談を受けると必ず言うのが、
3年の間に、どこへ行っても食べていける仕事を身につける。
国家資格のようにそれがないとつけない職業がいい。
デビューまでの10年間のロードマップを作る。
3年で写真のスキルを身につける。
できれば3年間をまったく別のことで生きる。
理想的なのは農業、漁業、林業などの第一次産業につくこと 。
1年間は海外に住む。

経験が大きなウェイトを占めていたフィルム時代は、わき目もふらず10年の時間が必要だったが、誰でも撮れるこの時代、写真以外の経験の差が大きくなる。第一次産業を勧めるのは、それに従事している人たちが直感力に優れているから。写真を職業ではなくて表現として考えるなら、直感力はもっとも必要なスキルだ。

海外に住むというのは、まったく異なったものの考え方が世の中にあるということを知るため。そうすることで自分の作っているものを客観視できるようになる。なにより日本語以外の言語を習得できることは、活動の幅を大きく広げることにつながるから。

この方法なら、写真で食べていくのは難しいとしても、写真で生きていくのはできそうだ。




渡部さとる写真ワークショップ2B&H

江古田(練馬区)で14年間続けてきた「ワークショップ2Bは、事務所ビル建て 替えにより、場所を阿佐谷(杉並区)に移し、「H」(エイチ)と名前を変え2018年4月から新規にスタートしています。