感度分の16

世界中、晴天なら太陽の光の量は一緒。晴れた日に写真を撮りたければ、絞りをf16まで絞って、感度分の1秒にシャッタースピードをセットすればいい。ISO400ならシャッタースピードは1/400で絞りはf16になる。  

僕はこの法則を「感度分の16」と呼んでいる。  

その設定のまま、空が青く晴れた気持ちのいい日曜日にカメラを持って散歩してほしい。露出を合わせるのが面倒で、買ったはいいがしまいこんでいたライカやローライやハッセルがあればなおいい。露出はもう決めてあるわけだから、後は光が当たっているところにレンズを向けてシャッターを切るだけだ。

(2014年『旅するカメラ2』「感度分の16」より抜粋)


「感度分の16」といういささか奇妙なフレーズが、『旅するカメラ』の代名詞のようになってしまった。本の出版以降、よく「感度分の16で撮ってます」と言ってもらえる。

もともと僕が考えたわけではなく、昔からの言い伝えのようなもの。僕がいたスポーツ新聞社では「晴れたらセンパチ(ISO400のフィルムでシャッタースピードが1/1000秒、絞りがf8)」と言っていたが、これも同じようなものだ。

晴れたときの露出は変化しないのだ。

この「感度分の16」は、デジタル時代にも有効な指標で、春夏秋冬どの季節、どの地域でも使える。今まで標高4000メートルの高地や、赤道直下の南の島、ヨーロッパ各国、アメリカ、もちろん日本各地で撮影してきたが外れたことがない。

なにせ地球を周回しているISS(国際宇宙ステーション)が地球を撮影するときの露出と同じなのだ。NASAではニコンのデジタルカメラを使い「ISO200に設定、シャッタースピードは1/200秒、絞りはf16にせよ」と指示が出ている。宇宙から見れば、晴れているところの光の量に差が無いことがよく分かるはず。

以下に、僕が普段使っている露出の目安をまとめておきます。基本は晴天の時の光の量は世界中どこでも一緒。日の当たる場所が同じなら日陰や部屋の中に差し込む光も一定ということ。見た目ではなく状況で露出を覚るのがいい。感度は常に一定にしておくことが大事で、ここでは感度400で考えている。

<1/250 f16>

晴れたら絞りをf16、シャッタースピードを感度の数字と同じにすればいい。海外では「サニーシックスティーンルール」と呼ばれる露出の決定方法だ。基本は感度400なら1/400秒f16にする。フィルムカメラなら/250秒f16でも大丈夫。青い空と白い雲をくっきり写すことができる。この露出は背中に太陽を背負う、つまり順光であるということが条件。そういうときは光がドーンとあたって真っ黒な影が出ている。一番きれいな青空は、自分の影の延長線上の空だということも覚えていて損はない。

1/250 f5.6

日の当たっている場所の露出が一緒なら日陰も常に同じ。ひさしがあって直射が当たっているところに隣り合ってできる日陰は1/250秒f5.6になる。これを僕は第一日陰と呼んでいる。面白いのは晴れても曇っても、そこの場所の露出は変わらない。日陰は常に一定の光の量なのだ。ちなみに影が出ない日の曇り空は1/250秒f8、薄い影が出ていたら絞りを11にする。

<1/60秒 f5.6>

直射が当たっていない窓辺の光は、1/60秒f5.6と覚えておくといい。窓辺の光はヨーロッパでもアメリカでも同じだ。1650年頃のオランダの画家フェルメールは日本人にもファンが多いが、彼の描く絵のほとんどが窓辺の光を使っている。もし僕が彼の横にいて同じ被写体を撮るなら迷わず1/60秒f5.6にセットする。そしてこの露出はモノクロ写真のマジックナンバーだ。この露出で撮られた写真というのはグラデーション豊富なプリントができる。

<1/30秒 f2.8>

夕ご飯をおいしく食べることのできる、人工光の露出は1/30秒f2.8。これ以上明るくても暗くても料理がおいしそうに見えない。食事をする場所は自然と同じ光の量に調整してあるものだ。それとマジックアワーと呼ばれる日没直後の残照もこの露出になっている。ちなみにヨーロッパの食卓は日本よりかなり暗め。黒目の色の違いによるものだろう。彼らは日本人には薄暗いと思われるところでも平気で本が読めたりする。

 

フィルムであろうがデジタルだろうが露出の考え方は一緒といっていい。デジタルならばその場で確認できるので感覚をつかみやすいはずだ。マニュアル露出を使えれば、もっと自由になれる。

マニュアル露出を試すならカメラは絞るとシャッタースピードを単独で変えることができる機種がおすすめ。僕の撮るモノクロ写真は、北側の窓から差し込む光を使うことが多い。直射光ではなく、間接光で柔らかく窓辺を照らす。グラデーションがたっぷりあるプリントを作ることができるからだ。

あるとき、窓辺の露出が常に一定なことに気がついた。

不思議なことに常に絞りがf5.6、シャッタースピードが1/60秒なのだ。夏でも冬でも、晴れていても曇っていてもいつも一緒。晴れていればコントラストが強く、曇っていればコントラストが弱く、見た目と同じように再現できる。

撮影ポイントは光の境目。窓から入ってきた光が急に落ち込むところだ。これはフェルメールが人物を描くときのポイントとまったく同じ。

窓が大きくても小さくても光の境目はいつもf5.6で1/60秒になる。窓が大きければ境目は窓から離れ、窓が小さければ窓に近づく。さらに晴れていれば境目は窓から離れ、曇っていたら窓に近づく。光の量によって境目は変化するが、その境目を中心に写真を撮れば露出は一定で良いことになる。

「モノクロ写真を撮りたい」という人には露出を固定して撮ることを勧めている。

まずは窓や入口のように一カ所だけ外に開いている場所を探してみる。露出はf5.6で1/60秒。最初は境目がどこか分からなくてもデジタルカメラで撮ってみるとその境目がはっきりするはずだ。知り合いがいたらそこに立たせて撮ってみてもいい。その仕上がりは驚くほど「モノクロ」になっているはずだ。

渡部さとる写真ワークショップ2B&H

江古田(練馬区)で14年間続けてきた「ワークショップ2Bは、事務所ビル建て 替えにより、場所を阿佐谷(杉並区)に移し、「H」(エイチ)と名前を変え2018年4月から新規にスタートしています。